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3月22日(日)渋谷コントセンター「新作ネタおろし!」の感想

お笑いライブ 渋谷コントセンター THE GEESE マッハスピード豪速球 コントについて

3月22日(日)の渋谷コントセンターは、「新作ネタおろし!」と題された回で、出演者4組に、コンビの持ちネタも何本かやった上で、作家が書いたコント*1をそれぞれ1本乃至は2本、30分の尺の中でやってもらうという、新しい試みの回。私はマチネを見ました。

そもそも、どのコンビも、どの程度脚本に忠実にやったのかというところが非常に気になる。程度によっては、下記に書く感想を訂正しないといけなくなるところもあるけれど、およそ脚本に忠実に上演したという前提で、感想を書きました(好き勝手に)。

ダブルブッキングは、そもそも川元さんの底のない井戸を覗くようなブラックさと黒田さんのこの明るさが狂気なんじゃないかという胡散臭さがどのコントにも生きていて、この個性こそが、他のコンビにはない圧倒的な魅力だ。だから、演者として持っている個性が強いので、作家との信頼関係というか、連携がとても重要になってくるのではないかと思う。その個性ゆえに、どんなコントでも成立させることができる、というわけではなさそうだ。(しかしその分、相性が良ければ、新しい魅力が生まれるようなコントもできそうな可能性を感じる。)今回やったコントは自殺した女(黒田)が死後の世界での就職先を(川元に)斡旋されるというコントと、客に対してうまいこというバーのマスター(川元)と客(黒田)のコント。演者自身からもしっくり来てない感じが出ていて、なかなか難しそうだった。 

マッハスピード豪速球は、これまで2本ぐらいしかネタを見たことがないけれど(気になっているので、これから見ていこうと思っている)、コントの背景を丁寧に作るコンビなんだと感じている。前回のコントセンターでの定食屋のコントは、定食屋の主人がサービスとしてお店でいろいろなことを試みるのだけど、思惑とその行動の結果がうまくいかなかったりするというコントで、ボケにあたる行動やそれに対する反応にも必然性というか、演技する際にしっかりした動機を必要としているコンビだという感じがする。今回やっていた、作家の作ったコントは、文具メーカーの就職面接に来た人物(坂巻)と面接官(ガン太)という設定で、就活生が面接官に向かってボケ倒すというコント。就活生には、自由奔放で芸人のネタ見せのようにボケる変わった人物としての説得力がなんだかあった。行動もちょっと挙動不審で他人との距離を構うことなく懐に潜り込む感じとか、そういう感じを受けてその人物をある程度許容してしまい、就活生のペースに巻き込まれていく面接官の対応があった。人物像が脚本に詳しく書いてあったのかはわからないけれど、そこを演技でしっかり作りこんだのではないかと、つまり演出がうまいのではないかと思う。だから、エンディングで、作家は「25分の長いコントになっていて驚いた」、という反面、マッハスピード豪速球は「ボリュームのあるコントを渡された」と真逆のことを言っていたのだと思う。行動の動機にリアリティをもたせて丁寧にやると、その分、尺は長くなるのではないだろうか。なんだか明るいコントで楽しかった。

ペパーミントの風に吹かれてがやった作家のコントは、ラジオの悩み相談コーナーに電話をかけてくる数人のおかしな相談者(成田)と、それを受けるラジオパーソナリティ(中沢)のコント。このコントは、電話でのやりとりなので舞台の上手と下手にそれぞれ座って、距離に隔たりのある(舞台空間上はそんなに離れてはいないものの)会話するという点に、構造上の難しさがありそうだと思った。つまり舞台の真ん中には見えない壁があって、演者は、お互いの反応は音声の情報を通してのみということになるので、なんていうか、舞台上の空気が滞留するというか、人と人との舞台上でのコミュニケーションの面白さというものは少ない。そうすると、淡々とした演技でも成立するくらい相談者のボケの言葉に脚本上の強さがあるか、派手な演技によって変わった人物を成立させるか、(くらいしか私は思いつかないけど、)そういう工夫をする必要がある。演者としてかなり器用じゃないとこれはなかなか難しそうなコントだと思った。ペパーミントの風に吹かれては、これまで見た感じだと、フリップを用いたり、演技は淡々としていながら面白い動きや発想(不穏なラジオ体操のコントとか、新幹線の窓ガラスに顔が張り付いてしまうコントとか)をしていたので、設定や構造上の面白さを得意としているような気がする。そうすると、このコントとは、なかなか相性がよくないかもしれないな、と思う。(それでも結構面白かったんだけど。)それか、別に演出家がつくとかしたらよりよい変化をするかもしれないなあと漠然と感じた。

THE GEESEは、「リスク&リターン」というクイズ番組の挑戦者(高佐)と司会者(尾関)のコント。クイズに正解すればなんでも希望が叶えられる代わりに、不正解の場合はその希望と同等のリスクを背負わされるというコント。このコントは、挑戦者である高佐さんがあたかも今初めてクイズに挑戦しているかのような演出と、ミリオネア形式の「オーディエンス」により、実際の観客の挙手により回答を絞ることができるというライブ感があるので、演者にある程度の好感度があれば、一定の盛り上がりを見せることができるという構造上の強みがあると思った。そういう強みの有無を除いても、THE GEESEは、他のコントを観ていても、色々なコントを演じることができるとても器用なコンビだなと感じた。

エンディングで、ダブルブッキングの黒田さんが、「渡された脚本がTHE GEESEを想定していたみたいで、脚本に書いてある名前がTHE GEESEの個人名になっていた」という主旨のことを言っていた。何らかの理由でダブルブッキングの脚本とTHE GEESEの脚本が入れ替わったのだとしたら、ダブルブッキングは脚本を選びそうだと初めに書いたけど、リスク&リターンのクイズ番組のコントならうまく成立したかもしれないとも思う。

そもそも、脚本自体の面白さ云々よりも、作者が想定した脚本の面白さを汲んでそれに賛同できるか、どう演出するか、というポイントがすごく大きいものだと私は思う。私の経験上、演劇の脚本を読んだだけではピンとこなかった点が、舞台上ですごく笑えるポイントになっていたりするものだから。だから、うまくいかなかった原因を脚本だけの問題とするのは早計で、創作者同士(作家と演者と)の相性や思想の問題が大きいだろう。

問題があったからと言って、糾弾していたら何も育たないと思うし、そういう試行錯誤も含めて新しい試みはできていく。お笑いコンビの普段のコントがどういう個性なのかということを強烈に感じる面白いライブだった。

*1:ダブルブッキング:徳元優太「ゴーストライフ案内所」、川口夢斗「あー言えBAR、こう言う」 マッハスピード豪速球:宇野智史「就職面接」 ペパーミントの風に吹かれて:宇野智史「テレフォンお悩み相談」 THE GEESE:鍵谷友悟「クイズ!『リスク&リターン』」