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3月7日ワラインプロ9の感想、主に「ステイタス」への関心

お笑いライブ 演劇 かもめんたる ラブレターズ THE GEESE コントについて

3月7日、ワラインプロというライブに初めて行った。約一ヶ月前のことになるけど、面白かったのでまとめておくことにした。ワラインプロとは、即興劇つまりインプロビゼーションと、お笑いを融合させたライブで、かもめんたるの槇尾さんが主催。今回の出演者は、かもめんたる槙尾さん、THE GEESE高佐さん、ラブレターズ溜口さん、さらば青春の光森田さん、ライス関町さん、ロビンソンズ北澤さんに加え、他のライブが被っており出演者には名前のなかったトップリード新妻さんが他のライブの合間を縫って急遽参加した。「ワラインプロ9」という名前の通り、既に9回目を数えるらしい。

このライブで実践していたインプロには、決まったメソッドがあるようで、そのうちのいくつかを行っていた。観た即興劇(即興ゲームと言ったほうがイメージに合うかもしれない)の中で、面白かったものを書いておこうと思う。

「私は誰?」という、2人一組で行った短い即興は、椅子に座った人物(Aとする)に対して、もう一人(Bとする)がAに対して演技で関わりを持って役を与えるというもの。Bは自由にシチュエーションを決めることができるが、Aも観客も、Bがどういうシチュエーションを設定したのかは予め知らされない。Bは初め、言葉を使わずに動きの演技だけでAに関わりをもつ。Aは、Bが自分を何者として関わってきているのか検討がつくまで、言葉は発してはいけないというルールがある。Aは自分に与えられた役が何なのか検討がついたら初めて言葉を発し、Aが言葉を発したらBも初めて発話してよいことになる。Bの意図したシチュエーションをAが汲むことができるかどうか、という即興。椅子に座ったAをライスの関町さん、Bをラブレターズの溜口さんがやったケースが面白かった。溜口さんが想定したのは、テスト中の教室というシチュエーション。溜口さんは監督官の教師として、教室でテストを受ける生徒たちをゆっくりと見回り、途中生徒が落とした消しゴムを拾い上げた。関町さん自身に直接動きで語りかけるわけではないが、そこがテスト中の教室で、関町さんはテストを受けている生徒のうちの一人であるということを表現していた。関町さんの最初の発言は「先生、トイレに行きたいのですが…」というような内容の台詞で(台詞自体の正確性はありません)しっかり状況が伝わっていた。意思疎通が上手くいった様子を目の当たりにすると興奮する。このケースで、溜口さんは舞台空間を使うのがとても上手だと感じた。「舞台空間は、登場者がそこに入りこむことによってはじめて、息づき、単に物理的な空間ではないものになる。」と、別役実さんがその著作の中で述べているのだけど*1、溜口さんのこの即興での振る舞いは、舞台空間が息づく瞬間の鮮やかさを感じた。溜口さんのこの演劇的な舞台感覚は、舞台役者の経験に基づくのだろう。

もう一つ、とても興味を持った即興があって、それは「ステイタスシーン」という。「ステイタス」というのは、立場の上下のこと。この「ステイタス」という考え方がすごく興味深くて、私はこのライブが終わってから、槇尾さんがキース・ジョンストンという人の名前を挙げていたので、それを頼りに彼の「インプロ―自由な行動表現」という本を買って読んだ。とても面白い本で、知りたかった「ステイタス」についての考え方を読むことができた。「ステイタス」という言葉はすごく便利だ。私はこれまで、この流動的な立場の強弱のことを、マウントポジションを取るとか取られるとか、強く出るとか、去勢を張る、とかなんとか、やや不自由な表現を用いていたけど、こういうことは「ステイタス」という言葉で簡潔に表せるように思う。まさに言葉によって世界が分節化された瞬間だ。
それでこの即興ゲームは、例えば参加者が3人なら、自分が3人のうち何番目のステイタスかを心の中で決めてから、即興劇をはじめる。心の中で決めた順位が1番の人が2人いれば、自然と、相手より上に出たいもの同士の立場争いが生じる。でも、ライブではこの即興は、ステイタスが1番のものは社会的ステイタス(立場)も強いもの、という形で固定され完結していた。例えば、ステイタスの1番高いものは、会社というシチュエーションであれば部長、ステイタスの2番目のものは先輩、ステイタスの3番目のものは新人、という風に。つまり、社会的立場の強弱が即興劇内で判明した途端、立場争いが収束してしまうのだ。だけど、このゲームの面白くなるポイントは、つまりステイタスの上下をゲームに用いることの面白さは、社会的ステイタスのみでステイタスの上下が固定されるのではなく、部長という立場でありながらまったく尊敬されていなかったり、先輩なのに新人に舐められている節があったりというような、もっと流動的な立場の上下の読み合いと競い合いなのではないかと思う。この流動的な駆け引きこそ、目の当たりにしたい即興なのではないかと思う。だから、このゲームをもし次にやるのなら、クラスメイトとか、同窓会とか、同期会とか、社会的立場が元々同等なところからはじめるか、または社会的立場は予め決めておくなどしたら、もっと演じやすそうだし、面白そうだと思う。このゲーム自体がすごく面白い。もっと尺を取ってじっくり観てみたい。

エンディングにて、槇尾さんが、インプロには2つの主流があって、その一つがキース・ジョンストンで…と言っていたのだけど、もう一つはなんて言っていたのか忘れてしまった。そもそも、このワラインプロ9には出演されていなかったが、このライブの進行はモクレンというコンビが行っており、このコンビは普段からインプロを用いたワークショップを開催しているということだ。「ワラインプロ10」では、彼らが出演するそうなので、もっと多様な展開があるかもしれない。とても楽しみだ。

*1:別役実の演劇教室 舞台を遊ぶ』白水社