『徳井と綾部の漂流日記』(2015年5月22日)の感想

2015年5月22日(金)21:00からの『実録!芸人奮闘ドキュメント 徳井と綾部の漂流日記』を観た。ヨシモト∞ホール、前売り1800円。平成ノブシコブシの徳井さん、ピースの綾部さんがホストを務めるライブ。このライブは隔月で行われており、今回で通算4回目。毎回、ヨシモト∞ホールで活躍する若手芸人が2組、ゲスト出演する。1回目はニューヨーク、おかずクラブ。2回目はテゴネハンバーグ、やさしいズ⇒( 関連記事 )3回目はピスタチオ、ハンプティ・ダンプティ。(都合が悪く観に行けず。)だれがゲストに来るのかは行ってみないとわからないライブだけど、ゲストに来た若手芸人についてはかなりじっくり知ることができる、貴重なライブ。ネタや芸風についての目線が強い徳井さん、タレント性やコミュニケーション力についての目線が強い綾部さんという、コンビの解体に向いた二人がホストだ。

今回のゲストは、カナメストーンと、フレミング。二組とも魅力的なコンビだった。

一組目のゲスト・カナメストーン

カナメストーンは、ボケの零士さんとツッコミの山口さんの茨城県出身の同級生コンビ。今年(2015年)6年目の東京NSC15期生。コンビ名は、地元・茨城の鹿島神宮の要石から。もともと、カナメイシというコンビ名にする予定だったが、ケツメイシと被るという理由で、石を英語でストーンに変更したとのこと。私はこのコンビは、初見だった。前向きな明るさがあって、好印象だった。

ネタは漫才。登場時のトークがちょっと舞台慣れしていないような印象を受けたので、少し心配になる気持ちで観ていたのだけど、空気に飲み込まれないマイペースさがあり、自分たちの調子を崩さずにキャラクターを押してくるので、次第に観客の気持ちも牽引していったように思う。

マイペースで明るい印象のコンビ

この二人のマイペースさや、独特な感じを、二人自身が気づいていなくて、または、気づいていても、それを気づいているということを観客にプレゼンできていなくて、鈍感そうな印象を与えている部分があるかな、ということが気になった。例えば、零士さんを見ていると、今会話をしている相手が許容しているなと思える範囲を超えてぐいぐい行く感じが、ちょっと不気味さがあるのだけど、それが自覚的なのか無自覚なのか、どう捉えて良いかわからなかった。だけど、綾部さんに「(その感じ)オネエなの?」と訊かれて「違います!ただ気持ち悪いだけです!」と答えていたので、自覚的なのだとわかった。不気味さ、と形容したけれど、一見そのような印象を受けるだけで、彼の行動の動機に得体の知れないものがあるわけではなく、よく見ていると、明るく無邪気で天衣無縫なのだとわかる。なんだか次第にかわいく見えてくる。

山口さんは、清潔感もあり、大らかそうな印象。「モテそう」という意見に対して、かつて、髭を生やしていてモヒカン(だったかな、ちょっと曖昧)だったのだけど、少し髪を染めて前髪をサイドに流した今の髪型にしてからモテ始めた、とのこと。「清潔感が大事だからね」と徳井さん・綾部さん。山口さんは鹿島高校出身で、プロサッカー選手を目指していたそうだ。

仲の良さが特徴的なカナメストーン

このコンビは、二人の仲の良さが特徴的なコンビ。徳井さんも綾部さんも、早々にその個性を見抜いて話題にしていて、当たり前のことながら、プロの目線だということを反芻した。カナメストーンの二人は、同居しているそうだ。以前のゲスト・テゴネハンバーグが同居していると言った時には、徳井さん・綾部さんともに「うまくいかない!」と反対していたけど、今回は二人の空気感から、他人がどうこう言う必要がないほど、気が合っている様子を感じたからなのか、同居反対の流れにはならず、仲の良いコンビが持つ特有の空気の話題に。

長く付き合っている二人の息のあった感じというのは、NSCで出会ったコンビが出そうと思って出せるものではないから、そういう「同級生コンビ」特有の空気が羨ましい、と徳井さんと綾部さん。他にそういう空気を持ったコンビには、スリムクラブがいるという話に。他にそういうコンビいたっけ、と考えるものの、スリムクラブ以外出てこないホストのお二人。スリムクラブは、内間さんが、真栄田さんに全てを託している…というコンビ間の関係から、トータルテンボスも同じくだ、とまた名前が挙がる。そして、同級生の仲の良さが自然に出ているコンビのトップランナーは、さまぁ~ずで、この点については誰も打ち勝てない、とのこと。綾部さんは、カナメストーンに対して、仲の良さは武器になるけれど、その出し方が押し売り過ぎると、観客もわざとらしさを感じ取って冷めてしまうから、加減が重要とアドバイスしていた。このコンビの仲の良さやマイペースさは、他にない独特な個性だと感じたし、とても好印象を持った。


二組目のゲスト・フレミング

フレミングは、医師免許を持つ宮本さんと、元美容師の舟生さんのコンビ。今年(2015年)5年目の東京NSC16期生で、やさしいズやユニバースと同期。実力も華も抜群で、徳井さん・綾部さんがともに言っていたように、こういうコンビが今後のヨシモト∞ホールを担っていくのだろう、という期待感のあるコンビ。見た目も、二人とも同じくらいの身長で、細身で清潔感がある。

宮本さんは、緑の半袖手術衣に黒のジャケット・パンツ姿で、舟生さんはVネックの白Tシャツに、さわやかな空色のスーツ姿で登場。フレミングについて、徳井さんは医者と美容師のコンビがいるということは知っており、綾部さんは宮本さんとは既に面識があった模様。服への関心が高い綾部さんは、登場早々、舟生さんのスーツの色が珍しい、と注目する。また、舟生さんの明るい茶髪についても、「歌舞伎町の客引きみたい」と、ホストの二人のトークが止まらない。「ネタもまだなのに、ごめん」ということで、漫才へ。

漫才について

冒頭に自己紹介を置き、宮本さんが、趣味で小説を書いている…と言うことから展開する漫才。コントを挟まずに、しゃべりのみで展開するいわゆる正統派のしゃべくり漫才。武器にしている宮本さんの「医師」のキャラクターもしっかり生きているし、舟生さんの切れのよいツッコミにより、とても聴きやすい。登場時のトークから、落ち着きがあって既に好印象だった二人だけど、漫才も堂々としていて、とても面白くて魅力的だった。会場を味方につけた感じがあった。

徳井さん・綾部さんともに、とてもしっかりした漫才だと実力を肯定する様子。徳井さんは、掛け合いのテンポが速いにもかかわらず、くずれたところがない点から、ものすごい練習量がないとできない漫才だと思ったようで、その点を質問していた。実際には、練習量、というよりも、よく披露している漫才だという返答に、「じゃあ100回以上はやってるでしょ」と納得。また、徳井さん・綾部さんは、舟生さんの的確なタイミングでテンポよく入る関西弁のツッコミや、宮本さんがしゃべっている時の舟生さんの相槌や聞く表情の豊かさが関西の漫才師っぽいという点で、舟生さんに、関西の漫才師を観て育ったのか?という疑問を投げかける。舟生さんは、関西弁…というよりも関西イントネーションの強い高知県出身で、漫才は好きだったけれど、地元はお笑い文化がなく、M-1もリアルタイムでは放送されず、結果を知った上で遅れて放送されるような田舎だったそうだ。

宮本さんが芸人を目指した経緯

宮本さんは群馬大学の医学部卒。医学部に入ったのになぜ芸人を目指したのかというと、元々お笑いが好きだったこともあり、大学生の頃にオンエアバトル等を見て、芸人になりたいという気持ちが見過ごせなくなったからだそうだ。医学部を卒業し、医師国家試験に合格すると、二年間の臨床研修期間を経る。その後、医局へ所属することになるのだが、医局へ入った後に医師を辞めることは、ポストに穴を空けることにもなり、タブー視する向きが強いそうで、もし芸人を目指すなら、臨床研修期間を終えたタイミングが最後のチャンスだと思い、そこで医師への道を選択せず、NSCへ入学したそうだ。

舟生さんのルックス

ホストの二人、特に綾部さんは、舟生さんの見た目についての話が止まらない。なぜ空色のスーツなのか?というのは、「元美容師」というと、オシャレなイメージがあるので、人と違った個性的な色のスーツを衣装にしようと思った時にこの空色を見つけたから…だそうだ。一方、宮本さんも黒いジャケットの下に、緑色の手術衣を着用していることが話題に。宮本さん「白衣を着たほうがいいかな、とも」と、二人とも衣装について試行錯誤した様子が伺える。また、毎回この衣装というわけではなく、臨機応変に変更しているようで、今回は自己紹介的な意味合いがあったからだろうか、わかりやすい衣装を選択したのだと思われた。
徳井さんは、舟生さんの、空色の個性的なスーツ、白いVネックのTシャツ、明るい茶髪、という外見の要素から推測して、歌舞伎町の客引きみたいで、チャラくて、親不孝者、のような印象を受ける、と話す。さらには「盗みもやりそうな印象…」なんてことまで。特に髪の色から受ける印象が強い模様。綾部さんは、「今の無限大ホールに来る年齢層の若いお客さんに、このルックスが好かれているなら、そのニーズも大切だけど、もっと老若男女に受けることを考えて、黒髪で黒いスーツにしても似合うと思う」とかなり具体的なアドバイス。綾部さんはタレントとしての見られ方・振る舞い方への感度が高い。

私はフレミングは以前、彩Live Eastで観たことがあったのだけど、確かに舟生さんについては、外見から、なんかチャラそうだ、という印象を持ったことは否めない。だけど、今回のライブでほぼ初めてトークをしているところを見たのだけど、綾部さんの話を聞く時の舟生さんの姿勢は、よく相手をみてしっかり受け答えをしていたし、相手の話を受けた上で、しっかり自分のエピソードも的確な内容・長さで放り込むというコミュニケーションの丁寧さがあった。元美容師という流れで、「遊んでるんじゃないの?」と聞かれて「遊べてないんです」と、美容師時代に勤めていたのが大手ヘアサロンで忙しくて暇がなかった、と語る。「遊んでないです」ではなくて「遊べてないんです」と答えたところに、女好きなのかなというニュアンスが含まれていなくもない。でももっと前向きに、コミュニケーションを億劫がるタイプではなさそうだ、と捉えたい。

舟生さんのエピソードをいくつか

他にも舟生さんは、「美容師なら、カットできるの?」という質問に対して、「勤めていたのは2年なので、アシスタントまでなんです」と、カットの経験があまりないことを明かす。以前、ライブ前に、4人同時に髪を切ってと頼まれカットをしたものの、カットの技術もあまりないため、全員同じ髪型にしてライブに出してしまった…と申し訳無さそうに告白。徳井さん「個性が大事な芸人なのに全員同じ髪型にしたのか」と面白がっていた。また、テレビ出演の経験があるかどうかが話題になった際、舟生さんは、出演したTVが田舎では放送されなかったので、両親にDVDを焼いて送ったという話をしており、家族とは仲良くしている方だと言っていた。髪型や衣装から受ける印象とは違って、素朴な人柄だと思ったし、話し方も穏やかさがある。とても好印象を持った。

真面目で戦略的なコンビという印象

フレミングは、総合的に、とても真面目で戦略的なコンビだと感じた。披露した漫才が自己紹介的な要素を含みつつ、練習量の多いものだったことも、先輩・このライブの観客に対して、ほとんど初披露になるということを汲んだものだと思うし、話題に挙がっていた衣装についても、舟生さんのルックスは「元美容師」という印象から受けるオシャレなイメージを損なわないための選択だとしたら、意図しないチャラさに寄ってしまっているという問題はあったものの、二人それぞれのキャラクターをどう活かし、他の芸人とどう差別化を図っていくかを意識した結果の選択だ。トークも二人とも、落ち着きがあって穏やかであり、会話の流れをきちんと汲めるコミュニケーション力の高さがある。「医師」という他にない個性を全面に押し出していて、もちろんそれも大きな武器だけど、このコンビは技術的にも人間的にも魅力があると思ったし、もっと深堀りした魅力を知りたいと思った。期待感がある。

次回のこのライブは、2015年7月24日(金)21:00開演です。6月1日からチケット発売。とても楽しみです。