2015年8月のしずる単独ライブ『吉祥寺マチェーテ』について

しずるの単独ライブ『吉祥寺マチェーテ』を2015年8月12日(水)に観ました。観終えた後にノートに書いていたものを、今更だけど書き起こして上げておこうと思います。

8月に劇場で観たもの(2015年8月)という記事で書いたことの引用

しずるのコントを劇場でみたのはこれが初めて、というか、彼らのコント自体腰を据えてきちんと観たのが初めてだったのだけど、ものすごく面白かった。すでに、下半期に観たライブのベスト5に入るだろうという確信があります。どんなコントをする人たちなのか、あまり知らなかったのでDVDを何本か買いました。これから観ていく予定です。会場が吉祥寺シアターという、普段私は青年団の公演を観に足を運ぶ劇場。上演されたのも、"劇場で"観ることの面白さがつまった、演劇的な緊密なコミュニケーション、演劇的な演出、舞台上での遊びに富んだ、素晴らしいコント公演でした。今回のコント公演は、作・演出が池田一真さんだそうですが、どうやらコンビの両者ともにコントの書き手のようで、そんなコンビがお互いの作家性を尊重してなのか、今回は池田さんの作・演出で統一したようで、そういう創作において客観的な判断で分業の試みをするコンビなのかな、という点でもとても興味深く思っております。

各コントの概要(ネタバレです)

コントのタイトルは、村上さんがTwitterでコントリストの画像を上げていらっしゃったのでそれに準じました。

コントの内容について、記憶違いがあるであろうことをご了承ください。

(コントの内容についての記載のときは敬称略)

独裁者

熱弁し始めると、何を言っているのか不明瞭になる独裁者(池田)が演説するコント。何を言っているのかわからないのだけど、同調する側近らしき村上。

何を言っているのか、本当に理解していなくても同調するという人々への皮肉っぽくて面白い。

ボウリング

男二人がボウリングをしている。池田は連続でストライクを出しており、次もストライクを出せるのかどうか、というテンションの高いシーン。しかし、熱っぽいのは当の本人(池田)ではなく、友人の村上の方。連続ストライクを目の当たりにして、村上は自分のことのように緊張しており、気持ちを落ち着かせようと必死。一方、池田は、まぐれだ、次はそうはいかないだろう、と平静な様子。しかし、いざ投球、となると、真剣な表情を客席に向ける。緊張の必要のない村上が、「いやちょっと待って、気合を入れ直す…」と言って池田の投球を中断させる。池田は平静を装っているが、本当は連続ストライクは真剣に達成したい。緊張していることを意識すると強張ってしまうので、あえてゆるく振舞っていたのだった。何度目かの投球で失敗してしまう池田。これまでの無関心すぎる振る舞いから、村上に「こいつは本気じゃない」と思われてしまい、失敗した途端、蔑ろに扱われてしまう。一方村上は対照的にスコアを伸ばしていく。村上も連続ストライクが懸かる。池田の投球は自分の集中を削ぐだけの邪魔なターンとなってしまう。そのことをおくびにも出さない村上…

ボウリングで投球する時の表情って、そういえば一緒にボウリングに行ってる人も見えない。その背中しか見てない。コントでは平静を装っていた池田さんが、投球時にはうってかわって真剣な表情になる、という落差は、観客にしか見えない。面白かった。

弾抜く

右足に銃弾を打ち込まれた池田。村上と緊迫しながら下手から入ってくる。ドラマチックな台詞回し。舞台中央のソファに座り、池田に落ち着けと諭す村上。傷の手当をするつもりであるということがわかる。この家で何人も手当をし救ったという村上の言葉に安堵する池田。しかし、村上は手当てを始めようとしない。家着に着替え、手洗いうがいを行う。そして洗い物をはじめる。おかしいと思い始めた池田。しかし、やらないと気がすまない、あとコップだけだから、と丁寧に作業を終える村上。ようやく手当をはじめるのか、と思いきや、また更に別なことをはじめる村上。冷蔵庫の霜取り。「今日やるべきこと」と決めた全てを行わなければ気がすまない村上。放置される池田。生命の危機に瀕している。ようやく村上は、白い布を持ってくる。池田に布を渡す村上。「お前が施術するのではないのか」と聞くが、洗濯物をたたむタスクが残っているので自分でやるように言う村上。理不尽さに怒り戸惑いながらも止血する池田。銃弾を出さなければならない。しかし村上はまだ洗濯物をたたんでいる。ナイフで出せ、と指示だけする。早くしなければ命が危ないので仕方なく自分でやろうとする池田。ナイフはキッチンだ、キッチンに入るときは必ずスリッパを履け、と細かな要求をし、全くルールを譲らない村上。怪我を庇いつつキッチンへ移動する池田。池田はナイフを手にするが、良く火で炙れ、よく炙らなければ化膿する、と村上。恐る恐る銃弾を出さんと挑む池田。そこに洗濯物をたたみ続けている村上からタオルが投げられる。口に咥えろ、死ぬほど痛いから、と。それならお前がやってくれ!と池田は頼むが、村上は日々のタスクが終わらない。なんとか自ら弾を摘出した池田。あとは止血剤を塗ってカーゼで傷を塞ぐだけ、必要な道具は全て向こうの部屋に揃っている。これもまた池田に自分で取りに行かせる村上。村上は掃除機を持ち出して部屋を掃除。施術を終えて満身創痍で中央のソファに座る池田。村上に「考えたか?」と問われる。「何が?」。この部屋に入ってはじめにソファについた時、村上が「傷の手当は俺がする」というのに対して、池田「じゃあ俺はどうしたらいい?」と聞き、村上に「お前をこんな目に合わせたヤツにどう復讐すればいいか考えてろ」と言われていたのであった。結局銃創の手当を何もかも自分でやった池田。命に比べれば瑣末なことを優先させていた村上。今更「考えたか?」と再び聞かれ唖然とする池田。しばらく村上を見つめて「今、考えてる…」…

臨場感、緊迫感、飽きずに惹きつける牽引力があるコント。冒頭がドラマチックで切迫感のあるシーンから始まり、熱っぽい演技に期待感が高まる。池田さんの状態にどんどん負荷がかかっていき、一方少しずつ手当が進んでいくのも時間の経過に臨場感があって面白い。村上さんがタオルを投げるシーンがとても好き。その場で起こりえそうなこととしての生々しさがあった。

パチンコ

池田の家に池田と村上が入ってくる。パチンコ帰りの様子。今日以降、金輪際パチンコはやらないと話す二人。パチンコをやめると決めたら体が軽くなった、パチンコをやめたら視界がクリアになった、などとはしゃぐ二人。パチンコの話は今後一切やめようという話になる。パチンコの替わりにジムに行く、区のジムなら一日300円。池田はジムに行くことを想像し、楽しみにしだす。しかし一日300円というやすさをパチンコの出費と比較し熱弁を振るってしまい、パチンコの話は金輪際しない、という禁を破ってしまう。自分だけパチンコの話をしてしまったので、村上にも何か1つパチンコの話をするように頼む。そこで村上も、話をしようとし始めるのだが、村上は感情が高まっている様子で、緊張感のある空気に変わる。ようやく切り出した内容は、いつも池田と行くと負ける、池田だけパチンコをやめてくれないか、というもの。心底池田が原因で負けると思っているようで、切迫した要求。友人だった二人が、村上が訣別を言い渡したことで関係が変わっていく。涙する池田。村上は引っ越すとさえ言う。引越し先すら言わない村上。さらに帰り際に「またな」と言う池田に対して、頑なに「じゃあ」「また」などまた会うことを予期する言葉を一切使わない村上…

和やかな談笑ムードから、村上さんの感情が一変することで、二人の関係がガラッと変化してしまうのが面白い。

親と子

父親(池田)が仕事から帰宅すると、高校生の息子(村上)が迎え出る。何やら言いたげな雰囲気の中「母さんは?」と息子に聞く。「向こうで夕飯の支度。」父に話があると切りだす息子。父は夕食を食べながら聞こうと提案するが、ふたりきりで、と要求され、外に出るか、と親子で出発する二人。上手から下手袖へ。下手袖から上手袖へ移動しつつ、「何も聞かないの?」「言いたくなったら喋ればいい」というような会話。上手から下手袖へ再び移動しつつ、あそこの中華屋へいかないか、という主旨の会話。息子「でも母さんのカレーは?」父「母さんのカレーは水っぽくて好きじゃないんだ」息子「父さんのそんな面初めて見た」というような談笑。そして下手袖へはける。次に下手袖から現れるときには中華料理を食べ終わった後となっている。美味しかった、お腹いっぱいだ、という会話。袖へはけると時間を省略することになる、というコントの構造が明らかになる。上手袖へ向かう間に、息子が話を切り出す。「実は…」と話し始めると同時に上手袖へ。そしてまた上手袖から登場。「そんなことがあったのに何もできなくて」と観客は原因の詳細は分からないが友人に対して何かしらの後悔があったことだけを知る。「それで…」と言いながらまた二人は下手袖へ。そうしてまた下手袖から再登場。時間が省略されて、その間に関係性が一変している。父は息子に対して怒りの様子。「なぜ友人を守らないんだ!」と息子の不誠実を責める様子。弁解する息子。「これには訳が…」とまた上手袖へ。袖へはけ、再登場する時には二人の関係が変化している。和解、決裂を繰り返すが、やがて家に帰ろうとする二人。不意に父の蹴った石が何かに当たる。ヤクザらしき男に引っ張られ、また上手袖へ…(詳細省略)

親子の会話自体も、省略された時間を想像させるのもとても面白い。舞台上で起こる出来事が、まったく停滞しない。舞台上での時間の経過の構成がとても面白いし、少しずつ飛躍させているが観客をうまく誘導しながらなのがまた巧妙。

泥棒

コンビニの店員(村上)と、絵に描いたような泥棒(池田)。泥棒の風体の池田はアルバイトをはじめる模様。唐草模様の風呂敷を背負い、見事な泥棒ヒゲ、繋がった眉、黒い上下のスウェット。風体だけではなく喋り方も板についている。一人称「あっし」語尾「〜でさァ」…

コミカルで楽しいコント。

バイク

暗転したまま、二人の会話がスピーカーから聞こえ始める。待ち合わせて落ち合った二人。どうやら池田が最近購入したバイクを村上に見せる約束をしているらしい。池田はバイクに乗るために気合の入った格好で現れた模様。はしゃぎながら駐輪場へ向かう二人。池田が、友人が最近この付近で自転車のサドルを盗まれたという話をはじめたことから、バイクの盗難を心配し始める。しかし、まさか盗まれることはない、という前提で、冗談を言い合いながら進む二人。二人がまもなく駐輪場へ着くというあたりから、舞台が徐々に明転。舞台上にはバイクの車輪が二つ。立ち尽くす二人。スピーカーから流れる二人の会話はどんどん駐輪場に向かってくる。この先に待ち受けている悲劇を知らず、ほんの冗談のつもりでバイクが盗まれたら、と話す二人。会話が舞台に追いつく。立ち尽くす二人。二つの車輪。走り去る村上。車輪の真ん中で、バイクに跨るポーズの池田。暗転。

このコントの面白さは、舞台だから、という感じが特に強くて好き。小説でも映画でもなく舞台だからこそってかんじがある。

錦織

村上の家に池田が訪れる。バイトを数日単位でやめている池田。今回もアルバイトをやめた様子。そんな池田になにか言いたそうではあるが、池田の話を丁寧に聞く村上。なぜアルバイトを辞めたのか、それはテニスの錦織選手というおよそ自分とはかけ離れた存在への心配からだった。海外へ行くのにちゃんと寝られているのか、水は安全か、などと、自分のスケールに合わせて心配する。冷ややかな間でありながら真摯に聞く村上。しかしついに「自分の心配をすべき」と反論に出るが、池田には通じていない様子…

このコントはなんだか、有名人・芸能人に対するファンの過度な好意を皮肉っているように見えて面白かった。相手を慮った好意的な気持ちの「心配」でも、全く異なる尺度で斟酌されても「そういうことじゃないんだけどな…」と感じることもあるだろうな、って思う。

椅子に縛られている村上。池田に追い詰められている。外部から入り込んだ村上が、ヤクザの組員を見事に騙して組を解体させたらしい。女として組に入り込み、惚れさせ、告らせ、断り、組を離れさせるという手法。しかし舞台上の村上はおよそ女に見える風体ではない。明らかな女装といった格好。カツラすら組への潜入初日から忘れてしまっていたという。そんな成りではあるが「私は女です、信じてください」の一言で騙し通せたという。組を解散に追い込んだ村上に銃口を向け殺そうとする池田であるが彼もまた村上を女と思い込み惚れていた…

現実的には「嘘だろう」って疑念を差し挟むようなところでも、なんだか嘘が成立してしまって話が進んでしまう、バカバカしくてコミカルで楽しいコント。バカバカしくも、人の言葉を吟味せず鵜呑みにしてしまうことの皮肉なんじゃないか…と思えてくるのが面白くて好きな感じ。

 

付記

この『吉祥寺マチェーテ』で見たしずるのコントは、登場する人物が二人ともそれぞれ個が立っていて、二人がそれぞれの動機を持っていて、会話をしあって物語が進む。そういう会話が舞台上で行われているのを、リアルタイムで演者を通して生々しく、呼吸とか、台詞を切り出す間とか、人と人とのコミュニケーションの再現を目のあたりにするっていう感じが好きだから、私は演劇やコントが好きなんだなと思う。そういう好きなものがしずるのコントにたくさんあった。二人の熱量が高めの演技も好きだった。

今回の単独ライブは作・演出が池田さんだったけど、こののち2015年11月20日(金)に「しずる村上が5人とコント」で村上さん作のコントも見た。5人の芸人さんと村上さんがコントをする企画だけど、相手に合わせて色々な種類のコントが書けるのがすごい。

また、2015年10月16日(金)に『しずると天竺鼠とネタ』というライブを見たら、この単独でのコント『泥棒』と『バイク』と『親と子』をやっていた。結構長めのコントだけど、再演する機会もあるんだなと思った。どのコントも面白かったけど、特に『弾抜く』っていうコントをもう一度観たい。

『パチンコ』というコントは、2015年キングオブコントの準決勝でやっていた。

 

以上

 

日時:
2015年8月12日(水)19:00開演
2015年8月13日(木)15:00開演 / 19:00開演
2015年8月14日(金)14:00開演
会場:吉祥寺シアター
料金:前売り4,000円