THE GEESEのコントの特徴と第9回単独ライブ「ロイヤルストレートフラッシュバック」の感想

THE GEESEの第9回単独ライブ「ロイヤルストレートフラッシュバック」を観た。私が観たのは5月1日(金)の19:00からの回。場所はSPACE雑遊。

とても楽しいライブだった。全てのコントが丁寧で端正な印象を持った。THE GEESEのコントは、いくつかは映像やライブで観たことがあるが、単独ライブのようにまとまった形で観たのはこれが初めてだったので、とても興味を持ち、単独ライブ後に、2本、DVDを観てみた。ひとつは、結成10周年記念ベスト盤「ニューオールド」、もうひとつは、2012年5月に行われた第7回単独ライブの「Poetry Vacation」。

3つの公演を通してみると「ロイヤルストレートフラッシュバック」には、THE GEESEの新しい魅力が含まれているように思った。

「ニューオールド」からみる、THE GEESEのコントの特徴「見立て」「置き換え」

特に、結成10周年記念ベスト盤「ニューオールド」を観て、THE GEESEのコントの特徴かな、と感じたのは、見立てる、置き換える(徐々に置き換わる)ことの面白さだ。卒業式をサッカーに見立てて戦略を立てる「卒業式」、自動車の運転技能の取得を歩行の技能の取得に置き換えた「歩行者教習所」、ニューヨークで、銃を手にした外国人に恐喝された日本人が拙い英語で助けを乞うが、その英語の発音を恐喝者に訂正され、次第に英会話教室と化していく「レッスン」など。

なにをもって「シュール」と言われているのか

なにかを他のものに予め置き換えて話が進む、または話が進む中でいつの間にかすり替わる。そして、予め置き換わっていること・いつの間にかすり替わったことは、そのコントの中では疑問を抱かれずに自明の理として進むことが多い。つまり、私達の現実の出来事から考えると、おかしな出来事がコントの中で成り立っているのだけど、それに対しての「ツッコミ」が不在なのだ。THE GEESEのコントはよく「シュール」と評されるようだ。「シュール」という言葉を使うのは、使う人がどういう点をもってシュールと言っているのか、曖昧なことが多いので、難しいと思う。私なりに解釈をすると、この場合においては、現実世界ではありえないことが、コント内で起こっているのにもかかわらず、そのことが疑問を抱かれずに進んでいく様子が、現実離れしている、このことを以って「シュール」という言葉をあてがわれて評されるのだろうと思う。

「ルール」の設定

そういう目線で見ていくと、触ったものを全て口に出して言ってしまう癖がある人物のコント「手は口ほどに物を」では、高佐さんの演じる人物は、尾関さんの演じる触ったものを全て口に出して言ってしまう癖がある人物を、「変わった癖をもつ人物」として扱う。初めて出会った変人に対する、ツッコミ的な新鮮な反応をする。それは私達が想定する現実の反応と同じだ。このおかげで、とても見やすいものになっている。また、THE GEESEのコントは「ルール」が設定されている、とも言える。「触ったものを全て口に出して言ってしまう癖」というのもひとつの「ルール」と捉えられる。全ての会話を否定形でやりとりするのが当たり前の世界のコント「タクシー」も、否定形のやりとりを前提とするという「ルール」と言える。

「ロイヤルストレートフラッシュバック」の各コントの感想

THE GEESEのコントは、見立て・置き換えやルールの着眼点の面白さが大きい。これが彼らの魅力的な個性であると思う。その上で、「ロイヤルストレートフラッシュバック」には、これまでの個性とは別の魅力がたくさんあったように思う。ひとつひとつのコントに、飽きさせないための工夫が各所に散りばめられていた。それは丁寧な構成だったり、わかりやすい(共有しやすい)ボケであったり、THE GEESEの演者としての魅力だったりだ。ひとつひとつのコントの感想を書いてみた。コントのタイトルは適当。(順番の間違い、抜け、勘違い等は前提に読んでください。)

・合格
会社のヘッドハンティング。自己の利益だけを優先した引き抜きを断った高佐に対して、尾関がその態度は「合格」だ、と言う。さらに、尾関がいくらでも金を援助するというのに対しても、高佐は当座を凌げる額で良いと言うが、それも「合格」だ、と言う。次第に、そんなことまで?という行動に対しても「合格」していったりして、徐々に飛躍していく面白さがある。

THE GEESEのコント劇的ビフォーアフター
「大改造劇的ビフォーアフター」の強力なフォーマットを用いたコント。THE GEESEの「シュール」要素を過剰にして盛り込んだコントを提示し(ビフォー)、匠の力によって大改造する(アフター)。とても構成の整ったコントだと感じた。パロディの面白さと、自らのシュールさを解体する、メタ的目線を含んだコント。「シュールさ」として提示されたものが過剰ではあったから、あまりそうは思わないけれど、構造としては自己批判的だ。とても面白かった。

・精神と時のカラオケ
ドラゴンボールの「精神と時の部屋」のフォーマットをカラオケ店に用いたパロディ。ドラゴンボールでは外界での1日が部屋の中では1年だったけど、カラオケ店での1分が外界では1年(だっただろうか…ここは記憶が曖昧)。時間が大変貴重なので、何を歌うべきか、二人は一悶着を起こす。ヒットソングの前奏に次々とツッコミを入れていく面白さに加え、THE GEESEがデュエットを披露したり、演者としての魅力にも溢れたコント。

・7時の悪口
「7時のニュース」的な番組が報道するのを、ニュースではなく悪口に置き換えたコント。政治、事故、相撲、芸能、各地の天気、とニュース番組をあますところなく悪口に置き換えている。終盤にはキャスター同士の悪口に発展し、登場人物の関係性の面白さもややあった。私はこのコントの皮肉めいた感じが好きだ。

・飛行機がエンジントラブル
飛行機で移動中の上司(尾関)と女性の部下(高佐)。飛行機がエンジントラブルに見舞われ、絶体絶命になる。あとはもう死ぬだけ…という状況だからこそ、セクハラをはじめる上司。女装の高佐さんからにじみ出る幸薄そうな感じも魅力の一つ。そんな高佐さんを背後から脅かす、パンツ姿の尾関さんは、背が高くて顔もそこそこハンサムではあるのに、なぜか気持ち悪さがにじみ出ている。尾関さんのかなりの長身なのに、纏う小心者感、ハンサムなのに、纏う不審者感のアンバランスさが存分に発揮されたコント。

・遡りカルチャースクール
3分、いや1分で習得したい技能が手に入るカルチャースクール。というのも、講師(尾関)がタイムスリップ能力を持っていて、過去において受講者に接触しその技能を習わせるからだ。過去を変えたことによる弊害が起き、それを阻止しようとまた過去へ遡るが、結局振り出しに戻って世界がループしてしまう…という物語展開の面白さがあり、習得した技能である「パントマイム」「オカリナ」「ダンス」を披露する、高佐さんのハイスペックさも目の当たりにできるコント。とても面白かった。

・Fish or beef?
飛行機の機内食サービスで、キャビンアテンダント(尾関)に「Fish or beef?」と聞かれるサラリーマン風の男(高佐)。「Fish or beef?」「beef.」「Beef or Chicken?」「(やや戸惑って)Beef…」と、絶え間なく質問が続き、次第に選択肢が飛躍していく。○○と○○だったらどっち?という選択のみで展開されるコント。「ゴッドタンの出演権orタモリ倶楽部の出演権」というような「THE GEESEの高佐さん」という演者のリアリティを踏まえた選択も面白味に加えたコント。

早稲田大学を受験したい
早稲田を受験したい生徒とその担任教師が、早稲田大学を受験するための学力の有無を論じるのだが、「学力」が「複雑な路線の電車を乗り換える能力」という話に置き換わっており、壮大な乗り換えの話に発展していくコント。

・尾関交通一発ギャグ
運転手(尾関)が乗客(高佐)に対して、停留所のアナウンスの体裁で一発ギャグの短いプレゼンテーションを行う。乗客は降車ボタンを押すことで、運転手の一発ギャグが観られる。というバスを一発ギャグ披露に見立てたコント。「Poetry Vacation」でも一発ギャグのコントがあったけど、THE GEESEが一発ギャグを披露する感じはなんだかちょっと意外性があって面白い。

・捨てた童貞が帰ってくる
初めての彼女ができて、今日ようやく童貞を捨てられたという男(高佐)の元に、具現化した「童貞」(尾関)が現れるコント。物語的な展開のあるコントで、登場人物二人の関係の面白さもある。「捨てたはずの童貞が帰ってくる」という発想が楽しい。もう一度観たい。

「ロイヤルストレートフラッシュバック」で感じた魅力

「遡りカルチャースクール」、「捨てた童貞が帰ってくる」には、物語、というか、展開、というか、そういう面白味があった。高佐さんは、ワラインプロなどで観ていても思うのだけど、演技が伸び伸びしていてとても楽しそうだ。そして色々なことがそつなくできる器用さを持っている。「遡りカルチャースクール」ではそんなスペックの高い一面を垣間見られた。尾関さんからにじみ出る不思議な違和感が「飛行機がエンジントラブル」や「捨てた童貞が帰ってくる」で活きていたように思う。演者としての二人の魅力をとても感じた。きちんと作られた舞台美術や照明や音響は、演劇の公演と変わらない。コント一つ一つのみならず、公演全体としても丁寧に作りこまれていて、完成度が高い。これらは、私は今まで知らなかった魅力だった。

前回の単独ライブは2012年12月だったようで(第8回単独ライブ「北風と大脳」)、少し間が開いての今回公演だったそうだ。次回の公演は、できれば今年中に、と言っていたので、観に行きたい。とても楽しみだ。「Dr.バードと優しい機械」、「ALTERNATE GREEN」のDVDも観てみようと思う。


THE GEESE 第9回単独ライブ「ロイヤルストレートフラッシュバック」
作・演出:向田邦彦/THE GEESE
日時:2015年4月30日(木)19:00、5月1日(金)15:00(追加公演)/19:00、5月2日(土)14:00/18:00(計5回公演)
会場:SPACE雑遊
料金:3200円(整理番号付自由席)