1月8日、藤崎マーケット単独ライブ『TOKYO LUMINE THE MARKET』

1月8日、藤崎マーケットの単独ライブ、『TOKYO LUMINE THE MARKET』をルミネtheよしもとで観た。2017年、初めての観劇だったけど、もうすでに2017年ベスト5に入りそうです。

藤崎マーケットは、エンタの神様での「ラララライ体操」の人、として認知されているコンビで、本人たちも「リズムネタ一発屋」として身を滅ぼしたコンビだと自虐的なポジションを取っている模様。私自身はエンタの神様が放映されていた当時、お笑いから遠のいていたので、藤崎マーケットについてはほとんどイメージも無かった。

藤崎マーケットを観たのは、2015年、2016年とキングオブコントの準決勝。とても面白いコントをするコンビだという印象。実際に2015年は、決勝進出も果たした。藤崎マーケットが単独ライブをするなら、必ず観に行こう、と心に決めたのは、2016年の準決勝で観たコント。導入シーンの鮮やかさが、強く印象に残っている。明転すると、トキがリビングのソファに座っており、テレビをザッピングしている様子から始まる。コントの笑いどころまで、早く展開しなければ、というような気が急いた印象はなく、落ち着いた始まり方。演技がとても自然でリアリティがある。セリフはナシ。ザッピングで気に入った番組がなく、スマホを手にとって、ソファに寝転がり、暇つぶしをしはじめる。「日常を流れる空気の再現に、意図的に力を入れているのだ!」と、私は興奮した。こうした日常の情景の中、非日常な出来事が勃発し、コントが展開していった。リアリティに支えられた非日常がとても面白かった。このコントの導入部分の演出から、私は、このコンビは、「リアリティの再現にきっとこだわりがあるのだ!その理由はおそらく、言葉ではなんとも言えないあの変な空気・やりとり、そういうものをつぶさに観察して面白がる視線があるからだろう!」と立てた仮定を半ば確信して、東京での単独ライブの開催を楽しみにしていたのです。

『TOKYO LUMINE THE MARKET』、公演の構成は、漫才が2つと、コントが8つ。各コントについての概要を書き残しておこうと思います。漫才は割愛。コントの順番は上演順ではありません適当。セリフは正確ではなく、意味が合致している程度にみてください。内容は記憶に拠るものなので、間違いはご了承ください。コントの展開や詳細を多少なりとも言葉で書いてしまわなければ、どの点を面白がっているのか説明できない、という理由から、ネタバレを含みます。

1.家の記憶
舞台中央に食卓、上手に棚(カラーボックス)。家のリビングの様子。玄関のドア音のSE、下手から学ラン姿のトキが入ってくる。この家に住む高校生。食卓に座る。下手側スピーカーから、母親のSE声「帰ったらただいまくらい言い」みたいなセリフ。「おかん、おったんか」と言いつつもトキ、「うるせーな、ただいま!」的な応答。しばらく、上手奥の部屋にいるらしき母親と、息子(トキ)の日常的な親子の会話が続く。そんな中、玄関から母親(田崎)が、買い物から帰ってくる。しかし母親は奥の部屋にいるはずである。混乱するトキ。奥の部屋に誰かいる!と、不審がるトキ。母(田崎)、スーパーで買ってきた長ネギを片手に、奥の部屋を確認しに行くが、誰もいない。だが母親のSE声はやまず。しかし母(田崎)、普通に過ごし始める。どころか、母(田崎)「あんたそういえばテストどうやったん」母SE声「そうやテストどうやったん」のような調子で息をあわせはじめる。状況受け入れてしまったかのような母と、戸惑う息子。動揺しながらも日常は進み…

このコントも、日常の描き方、コミュニケーションのリアリティの精度が高くて心を掴まれた。いかにも有り得そうな、親子間の会話の再現があった。「いかにも有り得そうな親子の会話」を書こうとするとき、それはどこかで見たドラマやコントの虚構のセリフをなぞりがちだと思う。でもここには実際の会話の絶妙なリアリティを再現を面白味にしようとする意識を感じた。(とはいえこのコントはこの細密な再現それ自体が第一の面白味ということではなくて、この再現の上に構築される非日常の面白さがメインのコントだったと思う。私は自分の興味から、再現の精度に目がいった。)

2.はりま山芋の会
中央、天井から「はりま山芋の会35周年」というプレートが垂れ下がる。下手から、老人(トキ)と、それを後ろから介助する老人の娘(女装の田崎)が現れる。よぼよぼの足どりに合わせてゆっくりと中央の椅子へ腰掛ける。椅子の下手側に娘が立つ。娘は持っていたワインレッドのベロアのひざ掛けをトキに掛け、マイクを手渡す。老人(トキ)は、このはりま山芋の会の代表らしく、「山芋を育てて○年、雨の日も風の日も、山芋を育てて来ました……」と、会の挨拶を始める…

老人の、口をペチャペチャ鳴らす癖がある、同じ口上を何度も述べてしまうといったようなの挙動の再現度、老人の付き添う、もっともらしい振る舞いの女の様子が、とても面白かった。このコントのはじまりは、下手からゆっくりと登場人物の二人が現れるわけだけど、本当に見知らぬ老人とおばさんが舞台に出てきた!と思ったくらいだった。それほどの、老人然とした身体のうごき、老人を介助しながら後ろを歩く四十くらいの、晴れの場で少しめかした衣裳の田舎のおばさんであった。挙動の一つ一つがおかしく、こういう老人、こういう年かさのいった女の面白さが豊かにあった。喜劇だ!と思った。

3.ダンスのクラス発表
明転と同時に、奥田民生の「マシマロ」が流れている。舞台上のラジカセから流れているという体。舞台中央よりやや上手側で、「マシマロ」に合わせてダンスをするトキ。やや下手側で、体育座りをして、トキを観ている田崎。ダンスが終わると、田崎「藤原くんが作ったんですか?」トキ「はい。寝ずに作りました。」トキ「他に、候補がなければ、これで行きたいのですがどう思いますか。ここ踊りにくいよ、ってとこがあったら、言ってください。変えたりもできるんで。」と、次第に、会話から、クラスの出し物のダンスを決めるクラス会議らしいという事がわかる。ふたりとも、白シャツに、黒いズボン。トキは、前髪に黄色いパッチン留めをつけている。少しチャラめではあるが垢抜けてはないタイプの高校生の様子。トキが他の案がなければ自分のダンスでどうか、説明している最中、田崎は、「ちょっと可笑しいとこあったよなぁ」とヒソヒソと他の生徒と茶化すような雰囲気。「もう一回やってください」と田崎。トキ、もう一度踊る。田崎、ダンスに茶々を入れはじめ…

なんかちょっと痛いよな、って密かに思われてそうなやつ(トキ)が絶妙にダサい点があるダンスを真剣に作ってきていて、でも熱い感じで「自分の作ったダンスやりたい!」というのはさすがに恥ずかしいと思いつつも実際はとてもやりたげ。「他に候補がなければ…」というエクスキューズに凝縮されている。一方、田崎は、トキが持つ、真っ黒なほど検挙し易いわけではないが、確かに有る、グレーな、滲み出る絶妙な「痛さ」を茶化していく。田崎の野球部に入ってそうな男子高校生っぽさも最高だ。こういうコミュニケーション、ある!という高校生のやりとりのおかしさを精緻に掬い上げたコント。

4.町工場の宴会
町工場(製鉄所?鉄工所?)みたいなところの宴会が舞台のコント。トキ、田崎、年配の社員に扮している。それぞれ別々のグループで、大宴会場のような場所で、大勢で飲んでいる様子。トキが、田崎の方へ乾杯でもしに行く自然な流れで合流。田崎が、酔った様子でトキに「いつものアレ」をやれと依頼する。まだそんな時間じゃない、と言いつつも、渋々引き受けるトキ。「クモやれ、クモ!」と、「クモ」という定番の出し物があるらしい…

と、その会社ではお馴染みではあるが、そのコミュニティの外から見ると謎すぎる出し物が披露されていくコント。

5.RPGのラスボス戦
田崎、ドラクエⅢの勇者のような服装で剣を片手に登場。ついにラスボスのところへ来た様子。ラスボスが影ナレで「よくここまで来たな、お前たちもここまでだ…」というのであるが、セリフの合間にえずくような、呻き声が入る。田崎は、ラスボスに対立して挑戦的だが、ラスボスのただならぬ体調不良感に次第に疑問を持ち…

非日常的なものがどんどん卑近な状況に近づいていくコント。

6.カラオケ
中央にテレビ、テーブル、上下にそれぞれソファ。「ウルトラソウル」の最後のフレーズを歌うトキ。ソファに座り聞く田崎。歌い終えて、カラオケを楽しむ二人の様子。トキの歌っている最中に、歌いたい曲を連続で大量に入力していた田崎。しかし、一曲目が再生される直前に、出なくてはいけない電話がかかり、田崎が退出する…

田崎の入れた曲が色々おかしいコント。

7.円周率
円周率50桁を歌にした二人のデュオのコント。

8.おるおるモノマネ
細かいモノマネを次々にやっていく。「おもちゃを自慢しにくる友達の友達」「進研ゼミの漫画の雰囲気」「水族館で意外と盛り上がるエイ」「自転車失くしたヤツ」「会社のグループで言った居酒屋の店員が友達だった時」「高校生クイズのガッツポーズ」など…

どれも細かい描写が面白くて最高だった。絶妙な空気感の再現に長けていた。言葉ではなんとも言えないあの変な空気・やりとり、そういうものをつぶさに観察して面白がる視線があった。私が最初に気になった、コントの冒頭シーンのリアリティが高い理由が、ここに凝縮されていた!

ナタリーの記事。公演写真がたくさん掲載されている。

natalie.mu

藤崎マーケットが、この公演でとても好きになりました。今後、東京で公演をする際は必ず観に行く!と心に誓った。